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MY FOLON

私のフォロン 須山悠里(デザイナー) 2/2

2024/08/30

「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」展の図録と展覧会に合わせて刊行された2冊のアートブック『フォロンを追いかけて Book 1』『フォロンを追いかけて Book 2』を手がけたデザイナーの須山悠里。膨大な作品や資料と向き合い、またフォロンの故郷ベルギーや活動拠点となったフランスへの取材旅行を通して見えてきた作品の魅力や作家像について話を聞きました。2回目はフォロンの足取りを追う旅について。お気に入りの作品や取材旅行で写真家の木村和平が撮影した写真も紹介します。

フォロンの気配を感じる旅

フォロンは1970〜90年代にかけて来日して3回ほど個展を開いたことがあり、当時の日本ではよく知られていたのですが、その後は長らくフォロンが紹介される機会はありませんでした。残念ながら現在、若い世代の間でフォロンはあまり知られていないようです。そこで、図録やアートブックの発行元であるブルーシープの草刈大介さんのアイデアで、展覧会にたどりついてもらうためのきっかけとして、アートブックをつくることになりました。アートブックには、フォロンのドローイングや水彩画に加えて、フォロンの存在を感じることができるような写真を載せたいと思いました。そこで、写真家の木村和平さんも誘って、ベルギーとフランスまでフォロンを追いかける旅に出ることになったのです。

フォロンの巨大壁画があるブリュッセルの地下鉄の駅、ルネ・マグリットとともにフォロンの作品が展示されていたベルギー王立美術館、郊外にあるラ・ユルプの森に設立されたフォロン財団、パリの街などフォロンがいた場所のさまざまなところを訪れました。そのなかでも、もっともフォロンを身近に感じたのは、ビュルシーという農村にあるフォロンのアトリエでした。パリから南東に車で1時間半のところにあるビュルシーは、畑がどこまでも広がり、集落にはロマネスクを思わせる石造りの建物や教会が残っていて、街自体が中世のまま止まっているような場所でした。古い農家を改築したアトリエには、ちょっとしたオブジェなどがフォロンがいた当時のまま置かれており、中に入った瞬間に空気が変わって、フォロンの気配を強く感じることができたのです。最初の奥さんで自身もアーティストのコレット = ルネ・ポルタルさんともそこでお会いでき、資料やアルバムを見せていただきながら、たっぷりとフォロンの話をしてくれました。コレットさんが用意してくださった食事やワインも食卓でいただき、フォロンの日常みたいなものを同行した皆で感じ、とても素敵な時間を過ごしました。

木村さんが撮った今回の旅の写真を見ると、フォロンの作品と地続きになっているようでとても面白いです。過去なのか、現代なのか、どこからがベルギーでどこからがフランスなのか、時代も場所も曖昧になって、フォロンの気配が立ち上がってはまた消えていくような感じがするのです。

須山悠里が選ぶ「私のフォロン②」

出帆
1991
水彩、コラージュ

「フォロンのアトリエ兼住居だったビュルシーには、今なお、そこここにフォロンの気配が漂っていて、作品の一部なのか、端材なのか分からないような欠片が、至るところに散らばっていました。そうした欠片が、そっと添えられた作品に惹かれます」(須山)

フォロンを追いかける旅の断片

写真=木村和平
『フォロンを追いかけて Book 2』
(ブルーシープ刊)より

「木村さんがビュルシーで撮られた、一連の写真を眺めていると、ふと扉の向こうからフォロンが顔を出すのではないかと思えてきます。マグリットと並んで美術館に展示されていたフォロンの作品に描かれた月と、その後フラッと入った酒場の灯りが、自然と響きあう。この本を構成しながら、何度もそうしたことが起こりました。それは、フォロンと木村さんが、深く呼応していた証左ではないでしょうか」(須山)

須山悠里 デザイナー。1983年生まれ。主な仕事に、鈴木理策『知覚の感光板』『牛腸茂雄全集』(ともに赤々舎)、潮田登久子『マイハズバンド』(torch press)などの装幀、「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」(2022年、オペラシティ アートギャラリー/2023年、滋賀県立美術館)、「奈良美智:The Beginning Place ここから」(2023〜2024年、青森県立美術館)の展覧会グラフィックや図録のデザインなど。

©Fondation Folon, ADAGP/Paris, 2024-2025