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MY FOLON

私のフォロン 須山悠里(デザイナー) 1/2

2024/08/24

「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」展の図録と展覧会に合わせて刊行された2冊のアートブック『フォロンを追いかけて Book 1 』『フォロンを追いかけて Book 2』を手掛けたデザイナーの須山悠里。膨大な作品や資料と向き合い、またフォロンの故郷ベルギーや活動拠点となったフランスへの取材旅行を通して見えてきた作品の魅力や作家像について話を聞きました。1回目はフォロンの作品世界がもつ力について。お気に入りの作品や取材旅行で写真家の木村和平が撮影した写真も紹介します。

謎めいたところはそのままに

フォロンに対しては、夢の中のような世界を水彩で描く作家という印象をもっていました。それはデザインをしていく過程でも、大きくずれたことはありません。でも、さまざまな資料を見ていくなかで、フォロンの作品には不穏な空気やある種の怖さを感じるものも多いことがわかっていきました。どうやら柔らかな雰囲気をまとっているだけではない、謎めいたところはそのままに、図録やアートブックを手にしたとき、フォロンって一体どんな人なんだろう?と感じてもらう部分を残しておきたいと思いました。

展覧会で本物の作品を見るというのはやはり素晴らしい経験です。フォロンの水彩画は息を飲むほど美しいですし、ドローイングの線のディテールなど実物からしか伝わらない部分があります。書籍の挿絵やポスターのために描いた作品の原画もたくさん展示されていますが、ぜひ間近でその質感を見てほしいですね。

作品のなかには、展覧会でも見ることができる世界人権宣言の書籍の挿絵など、メッセージが強いものもあります。そこでは、戦争、差別など世界人権宣言の条文と直接結びつくようなモチーフを描いているのですが、やはりフォロンらしい水彩で表現されていています。まず、目の前の筆致を入口にじっくり絵を見てほしい。そして、メッセージは出口になればいいなと思っています。フォロンの作品には、これはなんだろう?と見る側に思わせてくる余地があるのです。声高ではなく、見る人をそっと作品の世界に引き込んでくれる力をもっている。それがとても心地よいです。

須山悠里が選ぶ「私のフォロン①」

無題
n.d.

(4点とも)
※東京・大阪会場のみの展示

「この地から、遠くに見える星を眺める人々。実は、同じ眼差しが、向こうからも投げかけられています。視線の交差や視点の複数性が、実にフォロンらしいと感じるドローイングの連作」(須山)

フォロンを追いかける旅の断片

写真=木村和平
『フォロンを追いかけて Book 2』
(ブルーシープ刊)より

「ブリュッセル郊外にあるフォロン財団の収蔵庫で、ドローイングや水彩、カラーインクの作品だけでなく、彼の遊び心あふれたオブジェやメモのようなものも、たくさん見せてもらいました。小さな本にビッシリと書かれたメッセージや、頁の間に差し込まれていた作品の手前のようなドローイングに、フォロンの頭の中を垣間見た気がします」(須山)

須山悠里 デザイナー。1983年生まれ。主な仕事に、鈴木理策『知覚の感光板』『牛腸茂雄全集』(ともに赤々舎)、潮田登久子『マイハズバンド』(torch press)などの装幀、「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」(2022年、オペラシティ アートギャラリー/2023年、滋賀県立美術館)、「奈良美智: The Beginning Place ここから」(2023〜2024年、青森県立美術館)の展覧会グラフィックや図録のデザインなど。

©Fondation Folon, ADAGP/Paris, 2024-2025