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MY FOLON

私のフォロン 現場から—— その② フォロンのメールアート

2024/09/17

日本で30年ぶりとなるフォロン展が、東京ステーションギャラリーで好評開催中です。担当学芸員の半澤が、展覧会開幕後に気づいたことなどを綴ります。

フォロンのメールアートが気になっています。

「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」展には、フォロンが旅先から親しい人に宛てた封筒やポストカード合計11点(内3点は複製)を出品しています。フォロン財団ではそれらを「メールアート」と呼んで分類しています。カードや封筒に印刷物を切り貼りしたり、元から書かれてある文字や切手のデザインを活かしたりして、水彩やカラーインクでイラストが描かれています。中にはデザインの一部のように宛名が書かれていて、よくこれで無事に届いたものだと驚いてしまうものもあります。

特に秀逸なのが1975年にフォロンが東京からジョルジョ・ソアヴィに送ったもの。ジョルジョ・ソアヴィはイタリアのオフィス機器メーカー、オリベッティのアーティスティック・ディレクターで、1960年代初頭からフォロンの才能を見出し、同社の広告や出版物のデザインをフォロンに依頼した人物です。ここでフォロンは高速道路が描かれた「東名高速道路完成記念1969」の切手を中心に貼り、その周りに風景と道路を継ぎ足しています。そして様々な車のイラストが描かれた印刷物を貼りつけ、コラージュ作品を完成させています。フォロンはこうした封筒やポストカードの制作を大切にしており、1975年にはソアヴィ宛ての封筒を集めた本が出版されました。

[宛名:ジョルジョ・ソアヴィ/消印:パレスサイド・ビルディング東京]1975年、フォロン財団蔵 

日本からソアヴィ宛てに発送されたもので他にも目を引くのが、フォロンが日本で手に入れた「目」や「口」、「太陽」と書かれたハンコを使ったものです。人物の眼のところに「目」、海に写った太陽を「太陽」のハンコを2回、反転させて押すことで表していて、フォロンの遊び心あふれる作品となっています。

[宛名:ジョルジョ・ソアヴィ/消印:東京]1970年、フォロン財団蔵 *複製を展示

旅をすることが大好きだったフォロンは、訪れた土地で郵便局に必ず立ち寄り切手を買っていたといいます。そしてその地で手に入れたものや印刷物を使って丹精込めて作品化し、思い出と共に大切な人に送りました。もしフォロンが存命だったなら、当館を訪れた際、目の前にある東京中央郵便局にきっと向かったことでしょう。果たしてフォロンはどんな切手を買い、どんな風景を描きこんだでしょうか。空想が膨らみます。展示をご覧になって感化された方もいらっしゃるかと思います。フォロンになったつもりで、ぜひメールアートを制作してみてはいかがでしょうか。

半澤紀恵 東京ステーションギャラリー学芸員。館では主に教育普及・収蔵品管理を担当し、展覧会関連イベントや建築に関わるパブリック・プログラムを企画運営。担当展に「辰野金吾と美術のはなし」展(2019年)など。

©Fondation Folon, ADAGP/Paris, 2024-2025