MY FOLON
私のフォロン 現場から—— その① 絵に切れ込みを発見!
2024/08/25
日本で30年ぶりとなるフォロン展が、東京ステーションギャラリーで好評開催中です。担当学芸員の半澤が、展覧会開幕後に気づいたことなどを綴ります。
今回は本展出品no. 126《無題》(制作年不詳、グラファイト・水彩)について。
この作品、どうも何を描いているのかわからない。展覧会の準備中は図版を見ながら、なんとなく濃い青の四角が日本列島の形のようだなどと、適当なことをぼんやり考えていました。
いよいよ作品が到着し実見の機会を得たものの、本展出品作はすべて額装された状態で届いたため、額から外すことはできません。そして合計約230点の展示レイアウトを決めるのに必死で、本作品をよく観察する時間も気力もないまま開幕を迎えたのでした。ようやく落ち着いて、そうだ、あの作品をよく見ておこう!と思いたった時には、開幕から1カ月が過ぎていました。
展示された状態で額の上から見るしかないので、横、斜めと視点をずらしながら、文字通り目を皿にして観察してみたところ、なんと、描かれた青い四角の両側に切れ込みがあるではありませんか!
実はこれ、立体作品かもしれないと思い、さっそく事務所に戻って図録の画像を拡大コピーし、観察した通りにカッターで切れ目を入れていきました。
地平線と思われる線は画面の中心を通っており、折りたたんでみたところ、いい具合にペーパークラフトが出来上がります。フォロンがよく描いていた都市のビル群が立体的に浮かび上がって、どうも間延びしているように見えた薄い青で塗られた四角い面も、ビルのてっぺんということであれば納得です。平面で見ていたときとは、全く違う趣となりました。
ところどころ、グラファイトの線が残っていることを見ると、これは試作かもしれません。それかそもそも立体作品ではなく、メッセージカードを作ろうとしたのかも?などと想像が膨らみます。
フォロンは日常生活で感じた問題意識を、矢印や都市、迷路、そして頻繁に登場する小さな平凡な男といった独特のモチーフに託して表現し、作品を通して世界を異なる視点でみることを提案します。この作品を作りながら、フォロンはどんなことを考えていたのでしょうか。
半澤紀恵 東京ステーションギャラリー学芸員。館では主に教育普及・収蔵品管理を担当し、展覧会関連イベントや建築に関わるパブリック・プログラムを企画運営。担当展に「辰野金吾と美術のはなし」展(2019年)など。
©Fondation Folon, ADAGP/Paris, 2024-2025